渡英する3週間前まで、私は劇場の案内係として働いていました。
と言っても、勤務年数は2年にも満たないほど短いです。
大学卒業後、私が最初に選んだ職種は貿易事務。
メーカー兼商社の中小企業で、貿易事務・営業事務のお仕事を約3年間続けた後、
ワーキングホリデーで約1年間アイルランドに滞在しました。
帰国後、事務職に戻る気分にはなれず、
まったく違う業種にチャレンジしたくて選んだ仕事が案内係。
もともと大のミュージカル好きというわけではなかったのですが、
舞台を観ることが趣味の友達が何人かいて、少しずつ影響を受けていたのだと思います。
劇場という非日常の空間が日常だった日々。
どんな仕事でも緊張感を持つ瞬間はあると思いますが、舞台はナマモノ。
同じ公演・演目でも、その都度舞台に流れる空気は異なります。
あの独特の緊張感は2年続けても慣れることはありませんでした。
(飽き性の私にはとてもいい刺激でした。)
ロンドンにはたくさん劇場がありますが、
その中でも絶対に訪れたいと思っていた場所は Apollo Victoria Theatre。
大学生の頃に劇団四季の会員の友達に連れられて、
初めて見た舞台がウィキッドでした。
1幕目のラスト、舞台中央でエルファバが箒を高々と掲げて"Defying Gravity"を熱唱し、歌の終了とともに勢いよく暗転。
感動しすぎてしばらく涙が止まらなかったのを今でも覚えています。
ロンドンでミュージカルを観るなら絶対Wickedは外せない!と
渡英前から心に決めていました。
ちょうど去年の今頃、ロンドンへ一人旅をした際に観劇しました。
実はロンドンでミュージカルを観るのはこれが2回目でした。
1度目はアイルランドにいたときに、
日本からあそびに来てくれた友達と一緒に観劇したレ・ミゼラブル。
レ・ミゼラブルは映画化もされていて、
ストーリーも馴染み深いものだったのですが、
やっぱり舞台で観る迫力はたまりません。
※クイーンズ・シアターは2019年7月から改修工事が行われ、「ソンドハイム・シアター(Sondheim Theatre)」の名で2019年12月に再オープンしたようです。
劇場も演目も異なりますが、案内係を経験した後に観劇すると、
それまでとは違うところに自然と意識が向かいます。
例えば公演が始まる前のアナウンス、
遅れてきたお客様をお席まで案内する案内係、
終演後にお客様をお見送りするスタッフ。
自分が案内係として働いていた時に他の劇場を訪れた際は、
職業柄気になって意識的にそういう点にも注目していましたが、
辞めた後も一度ついた習慣というのはなかなか変わらないものですね。
お客様をお席に案内するのがメインのお仕事ですが、
私は放送(影のアナウンスなので略して「影アナ」とも呼ばれます)のお仕事もさせていただく機会にも恵まれました。
教えてくださった先輩は、そういった放送関係の専門学校を出ておられ、別の劇場でも約10年間勤務された経験を持つ大ベテラン。
対して私は全くの別キャリアで、知識もなければ度胸もなく、
最初は自分に務まるのかとても不安でした。
少しでも先輩に近づくために、できることは何でもしました。
劇場だけでなくショッピングセンターなど、生のアナウンスが流れるところではどんな場所でも耳を傾けては真似をしたり、公演に関わらず通年変わらないアナウンスは暗記するまで家でひたすらぶつぶつ練習していました。今思うとちょっと怖いですね。
イギリスに来てからというもの、街中で館内放送を聞く機会は一度もなかったのですが、
久々に劇場で開演前のアナウンスを聞くとそれだけで気持ちが高揚しました。
アナウンスなんてどうせ誰も聞いていないだろうと思っていましたが、
それでも最初はかなり緊張していたのを覚えています。
狭い放送室でたった一人。
公演によっては舞台監督の指示のもと、
放送室から開演のブザーを押したり、ベルやその他のボタンを押したりするのですが、
それでさえ緊張して指が震えるほどでした。
舞台づくりに携われていると思うとやりがいは感じますが、
「あ、すみません、間違えちゃいました」とは絶対言えない、
失敗できないプレッシャーと責任感は半端なかったです。
そして、私は見事に当たりくじを引くというか、
呪われてんのか?と思うほど自分が放送担当の日にアクシデントが起こったり。
ある日は台風の影響で当日その場で決められたアナウンスをしたり、
ミュージカルの楽器トラブルで開演30分押しの事態に陥った際に、
これまた原稿のないアナウンスをすることになったり、
先輩も経験したことがないと言っていたハプニングを体験することが度々ありました。
普段は放送なんて全然気にしない人でも、そういう事態になると注意してアナウンスを聞くのではないでしょうか?
その際に、アナウンスが自信なさげだと不安感がさらに掻き立てられてしまいますよね。
お客様に安心していただくためにも、そういう時こそ落ち着いた、よどみのない声でアナウンスをしたいものですが、果たして自分に務まっていたのかはわかりかねます。
とりあえず、逃げるわけにも行かなかったのでなんとかやり切りましたが…。
(心の中ではシンジ君が出てくるほどにはパニック状態でした。)
敢えて異なる職種を選んだのは自分ですが、
ときどき事務職が恋しくなる日もありました。
実はコロナの影響で中止になってしまいましたが、本来であれば
今年の5月にマンチェスターの劇場でオペラ座の怪人を見るつもりでいました。
こちらに来て1年と5カ月くらい経ちますが、
未だに Palace Theatre Manchester に入ったことはありません。
10月から一応再オープンの予定で、
現在チケットも販売されているのですが、
演目はライオンキング。
昨年ディズニーから映画化もされましたね。
映画館にも行きましたし、日本にいる時に
劇団四季の公演も観劇するほどにはすきな演目ですが、
正直に言うと観たかったのはオペラ座の怪人だったので残念です。
Palace Theatre Manchester の上演スケジュールを確認すると、
面白そうだなあと思う公演はどれも私のビザが切れた後の日程。
人生なかなか思うようには行きませんね(笑)
仕事がすべてではありませんが、仕事を通してできる経験や学びは自分の中で大きな財産になると思います。
やっぱり人生は経験の積み重ねで、
意思決定をする際、少なからずこれまで経験したことが影響を与えているのだと感じることが度々あります。
たった2年弱でしたが、アイルランドから帰国して渡英するまでの日々は、自分にとって特別な時間でした。
また舞台を安全に観劇できる日が来てほしいなあとぼんやりと思った、そんなひとりごとでした。
最後まで読んでいただきありがとうございましたʕ·ᴥ·ʔ ♡︎⋈*。゚
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