2024年5月15日、スロバキア中部のハンドロバを訪れていたフィツォ首相(59)が、
政府の会議後、地元住民に歩み寄った際に、71歳の男性に銃撃される事件が起きました。
犯人は至近距離から銃弾5発を発射し、フィツォ氏は腹部や腕に銃弾を受けたものの、
2度の手術を終えて、状態は安定しているとのこと。
「特別検察局の廃止の決定、ウクライナへの軍事援助の停止の決定、公共放送の改革、そして司法評議会長官の解任」などの政府の改革に反対する考えを持っていたことが、犯行の動機だったと言われています。
どのような政治信条の違いがあっても、暴力で人を殺めるようなことがあってはなりませんが、
フィツォ氏が再度(今期が4度目)就任してからの強権的な政治姿勢に国内から懸念の声が上がり、市民による抗議活動が度々起きていたのも事実。
現在スロバキアで何が起きているのか、汚職問題が多いスロバキアの政治事情を知るために、
スロバキア人の友達から教えてもらったおすすめの映画を 4つご紹介したいと思います。
● 筆者の来歴 ●
大学を卒業後、約3年間勤めていた会社(営業事務・貿易事務)を辞めて1年間のアイルランドワーホリへ。帰国後は大阪の劇場で案内係として2年間勤務し、YMSビザ当選をきっかけにイギリス・マンチェスターに2年滞在。その後、帰国して大阪の博物館で館内スタッフとして約1年間働いた後、最後のワーホリ、スロヴァキアへ。ワーホリビザ終了後は、就労ビザに切り替え、引き続き首都のブラチスラバに滞在しています。
首相と大統領がいる国
昨年(2023年)11月にフィツォ氏が 4回目の首相に就任した際も大きな話題となりましたが、
先月(2024年4月)に行われたスロバキア大統領選挙・第2回投票の結果、
(スロバキアの大統領選は2回投票制で、第1回投票で得票率50%超の候補者がいた場合はその候補者が当選、いない場合には得票率上位2候補の間で第2回投票が行われます)
社会民主主義とともにナショナリズムを旗印とする連立内閣の一角を占めるHlas-SDの党首、ペレグリニ氏が当選したことは、ショッキングなニュースとして取り沙汰されました。
スロバキアは首相と大統領の両方が存在する国ですが、
行政権は内閣にあり、首相がそのトップとして行政を担います。
国によってパワーバランスは異なりますが、
スロバキアでは政治・行政の主導権は首相にあるものの、
大統領にも法案への拒否権など一定の権限があります。
(スロバキアの大統領は日本の天皇に近いイメージですが、大きく異なる点は恩赦を与える権限がある(刑務所で捕まっている人達を釈放できる)ところ)
憲法が定める大統領の主な権限には、閣僚の任免、議会の招集・解散、法案署名や議会への差し戻し、恩赦の発令などがあります。(恩赦の発令には首相の同意が必要です。)
スロバキアの大統領の任期は5年。
2024年5月現在、大統領を務めているのは、ズザナ・チャプトヴァー Zuzana Čaputová氏。
2019年3月30日のスロバキア大統領選挙第2回投票(決選投票)にて、
汚職廃絶や環境保護を訴えてマロシュ・シェフチョビッチを下して当選を果たし、
スロバキア史上初となる女性大統領に選出されました。
ズザナ・チャプトバ氏の貢献もあり、せっかく西側に近付いてきたものの、
次期(2024年6月~)大統領を務めるペレグリニ元首相は、フィツォ政権の政策を支持する立場。
ペレグリニ氏は第2次ロベルト・フィツォ内閣(2012~2016年)で
2014~2015年に教育・科学・研究・スポーツ相、2015~2016年に国会議長、
第3次フィツォ内閣解散後の 2018 ~ 2020年には首相を務めた経験もあり。
参考:スロバキア大統領選の第2回投票で、連立与党のペレグリニ氏が勝利(スロバキア) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ
今後は強権的な政治姿勢が強まる可能性が高く、
法の支配や民主主義の後退への懸念が出ています。
若年層を中心に、批判の声が上がっているのが現状ですが、ペレグリニ次期大統領は完全にフィツォ首相の言いなりというわけではなく、一部異なる政治思想を持っている…という意見も、、、
第4次フィツォ内閣で行われてきた改革
なぜ市民による抗議活動が起きているのか、
フィツォ首相が進めてきた 以下の改革3点について、順に見ていきたいと思います。
- 特別検察局(Special Prosecutor's Office)廃止の決定
- ウクライナへの軍事援助の停止の決定
- 公共放送の改革
特別検察局(Special Prosecutor's Office)廃止の決定
フィツォ氏が選挙前から主な目標の1つとして掲げてきた、特別検察局の廃止。
ズザナ・チャプトバ大統領が異議を唱えたものの、
汚職、組織犯罪、過激主義などの重大犯罪を20年間取り扱ってきた特別検察局は、3月20日に廃止されてしまいました。
今後こういった事件は、この類の問題を扱ってこなかった地方事務所の検察官によって引き継がれることになります。
また、フィツォ氏が推し進めた刑法改正計画には、
汚職に対する刑罰の軽減や、公訴時効の大幅な短縮も含まれています。
日本でもニュースで取り上げられていたので、覚えている方もいらっしゃるかもしれませんが、
今から6年前、2018年2月25日にジャーナリストのヤン・クツィアク(Jan Kuciak)氏と婚約者のマルティナ・クシュニーロバ(Martina Kusnirova)さんが自宅で射殺される事件が起こりました。
殺害されたクツィアク氏は、スロバキアの政治家とイタリア系マフィアとの癒着疑惑や、これに関連する欧州連合(EU)の農業補助金支払いの不正に関する記事を発表しようとしていました。
当時スロバキア国内では、報道の自由と汚職に対する大規模な抗議デモが行われ、
事件の翌月、当時も首相を務めていたフィツォ氏が辞任に追い込まれましたが、
ジャーナリストのクツィアク氏と婚約者を殺害した首謀者は未だに刑を免れています。
今回可決された「特別検察局の廃止」により、この事件の首謀者たちが正当に裁かれる見通しについても不透明になったと報じられています。
参考:
- Thousands rally across Slovakia to condemn changes to penal code proposed by populist prime minister | AP News
- Special Prosecutor's Office will shut down in March - spectator.sme.sk
- 汚職疑惑追及の記者殺害から1年、各地でデモ スロバキア 写真14枚 国際ニュース:AFPBB News
- 銃撃されたスロバキア首相はどんな人物?ウクライナ支援に反対し汚職捜査に後ろ向きで物議…ロシア寄りで分断深まる(3/5) | JBpress (ジェイビープレス)
このジャーナリストと婚約者が殺害された事件については、映画にもなっています。
- "Kuciak: Vražda novinára"
"The Killing of a Journalist" - 初公開: 2022年5月1日
- デンマーク、チェコ、アメリカ共同制作ドキュメンタリー映画
ウクライナへの軍事援助の停止の決定
「ロシアのウクライナ侵攻に関しては、ウクライナへの人道支援は継続するが、
同国への政府レベルでの軍事支援は停止する」としています。
ロシアがウクライナに侵攻を開始してから2年以上が経過しました。
武力でのサポートをやめることは、ロシアに加担すると捉えられても仕方ありませんが、
戦争以降スロバキアに避難し、今もここで生活をしている人たちを追い出すというわけではありません。
移民問題に関しては、日本の方が閉鎖的で時代遅れなのではないかと感じます。
来月(2024年6月)に施行される改正出入国管理法。
これにより、難民申請3回目以降は強制送還の対象となってしまいます。
さまざまな事情で祖国に帰ることができずに、日本で生活している人達を無理やり排除しようとする日本政府の動き、日本人として恥ずかしく、残念でなりません。
スロバキア政治情勢の話から脱線してしまうので、ここで深く言及することは控えますが、入管については過去にブログ内でもまとめています☟
私個人の意見というよりは、入管で実際に起きていたことの一部をまとめている記事です。
公共放送の改革
フィツォ政権は4月下旬、現存の公共放送RTVSを廃止し、
国営の放送局に置き換える提案を承認しました。
6月に議会で採決を行う予定ですが、可決される見通しが高いと言われています。
RTVS職員や野党、民間団体だけでなく、欧州放送連合(EBU)なども
言論の自由を脅かしかねない政府の方針に強く反発しています。
参考:
- 銃撃されたスロバキア首相はどんな人物?ウクライナ支援に反対し汚職捜査に後ろ向きで物議…ロシア寄りで分断深まる(3/5) | JBpress (ジェイビープレス)
- Slovakia's populist government to replace public broadcaster
スロバキアの政治と汚職問題を取り扱う映画
最後に、スロバキア人の友達に教えてもらった、
スロバキアの政治と汚職問題についての理解が深まる映画を3点ご紹介させてください。
Válka policajtů
ひとつ目は "Válka policajtů"
「警察の戦争」というタイトルの、2024年に公開されたスリラー映画。
1990年代、コシツェ(東部にあるスロヴァキア第二の都市)で地元ギャングとの停戦協定に渋々同意する警察官とその新しいパートナー。
しかし、残忍な犯罪者が不文律を破り、突然すべてが変わってしまいます…
音声はスロバキア語ですが、ネットフリックスでは英語字幕も選択できるようです。
Únos
ふたつ目は "Únos"
「誘拐」というタイトルの、2017年に公開された映画。
1990年代スロバキアの政治状景で実際に起こった出来事に触発されて作られた、
ぞっとするような過去を描いた作品。
2010年から2019年の10年間で、3番目に視聴されたスロバキア映画となりました。
参考:Únos (film z roku 2017) – Wikipédia
映像美も素晴らしく、緊張感を募らせる音楽も作品の魅力のひとつ。
YouTube上でも全編が上がっていますが、言語の壁があるのが問題です。
Sviňa
最後にご紹介するのは "Sviňa"
「極悪人」というタイトルの、2020年に公開されたスリラードラマ。
実話に基づく架空の物語とされています。
音声はスロバキア語のみ、2024年現在はネットフリックスでも見つけられないので、
映画の視聴方法を探すのは難しいのが難点。
先でご紹介したジャーナリストの映画もその友達に教えてもらいました。
おわりに
スロバキアに来て、今月で丸2年が経ちました。
ワーホリで来た当初は、ヨーロッパ各地へ観光するための拠点として、
ただ一時的に生活するための場所と考えていたので、
言語も文化も歴史もまったく何も知らない状態でした。
今でもスロバキア語はわからないし、歴史や政治も勉強不足ですが、
ここでの生活に居心地の良さを感じるのは、まわりで支えてくれる人たちのおかげです。
これまで出会ってきたスロバキア人の方の多くは、
どことなく、わたしたち日本人の性格・性質に似たものを持っているなと感じます。
(職場には日本人留学生の子とウクライナ人の子もパートタイムでいますが、フルタイムで働いているのは自分以外はスロバキア人で、家もスロバキアの地方出身の子たち2人と3人でシェアしています。)
自己主張が激しくなく、控えめで思いやりのある方が多い印象のスロバキア人。
治安も良く、自然が多い、時間の流れがゆったりとしている国です。
今回の事件でこの国に対してマイナスなイメージを持たれてしまった方もいるかもしれませんが、スロバキアには良いところがたくさんあります。
日本ではまだあまり馴染みのない国だと思いますが、ヨーロッパで長期滞在をするなら、意外と穴場でおすすめできる国。
スロバキア(主に首都のブラチスラバ)の魅力については、詳しくはこちらの記事にまとめています☟
今後もブラチスラバを中心に、スロバキアの観光スポットに関しての記事も更新したいと思います。
まだまだ自分自身、スロバキアについて知らないことが多いので、
学んだことを今後もアウトプットし続けたいです。
貴重なお時間を割いて最後まで読んでいただき、
本当にありがとうございました ⸜( ´ ꒳ ` )⸝ ♡♥
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